放課後になると同時に、僕は今日の授業の内容を全て頭から手放した。これから勉強なんかよりも大切な事があるのだ。空っぽになった頭で本日も戦場に向かおう。
行き先は東伏見のゲームセンター、『アミューズメント悟空』だ。
僕らにとってゲームセンターが満たしているべき絶対的な条件は「1PLAY 50円」である事だ。50円ならば毎月1000円のお小遣いで、20回もゲームが遊べる。50円ゲーセンである事は、まず第一の絶対だ。
坂道の多い石神井台の町並みを、ギア付きの自転車でかっ飛ばし、今日もアミューズメント悟空の入口の階段を登る。
自動ドアに迎え入れられて、タバコの匂いが混じったいつもの世界に身を投じる。
今日の予算は100円か、150円か、まあ2～3プレイってところかな、と思いながら両替機まで歩くと、『GUILTY GEAR X』の筐体に見覚えのある背中が座っていた。彼は通ってる学校は違えど、小さい頃からの地元の友達である「ゆっちょ」だ。よく「ヤナギ」という友達と一緒にここ悟空へ通っているのだが、今日はヤナギはいないらしい。ゆっちょが操るヴェノムを観察する。最近の彼はますますコンボのキレが増している。今や身内で一番ギルティが上手いのは彼だ。後で何か良い感じの情報を教えてもらおう。
さて、何から手をつけようか。やっぱり今アツいのは入荷間もないこれ、ガンダムだ。『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』。こんなに古いアニメは見たことないが、なんとなくモビルスーツは知っている。最近のお気に入りゲームの一つだ。
本日最初の50円を投入し、連邦のガンキャノンを選択する。この機体はなんといってもキャノン砲さえ撃っていれば基本的に弾切れの心配が無いのが素晴らしいところ。主役機であるガンダムは確かに強力なのだが、ビームライフルのチャージ速度がとんでもなく遅く、すぐ手の内が枯れてしまう。
そんなわけでガンキャノンに乗り込むと、ジャンプからのサブ射撃（キャノン砲）を中心に立ち回りながら、たまには意味のない格闘なんかも当てて遊んだりして、ステージ5の黒海まで進む。ここは最大で3機のドムが画面に入り乱れる中盤の難所。未だに安定してクリアは難しい。機動力の高いドムにキャノン砲が中々当たらず、自分は1落ちで済ませたものの、CPUの僚機がたくさん落とされて負けてしまった。
筐体から立ち上がり、次はジオン側の機体でも使おうかな、なんて思いを巡らせながら次に遊ぶゲームを品定めする。
『メタルスラッグ3』『ガンスパイク』『燃えろ!ジャスティス学園』『ミスタードリラー2』『パワーストーン2』『プロギアの嵐』とこのゲーセンのラインナップは非常に魅力的だ……。どれを遊んでも夢中になること間違いナシなのである。
ここはやっぱり1クレで長い時間遊べるヤツを選択するべきか。『ESPRADE』や『メタルスラッグ3』はラス面までいける、自慢だ。『燃えジャス』でロベルトのコンボを練習してスカッとするのもいいな。
そんな僕の脳裏に雷光が走る。そうだ！今日はアレをやるか！僕は悟空から出ると、真下に併設されているもう一つのゲームセンター『東伏見ゲームハウス』へ入った。
薄暗い店内には、モップが入った金属バケツが放置してあり、いつ見ても雰囲気がバッチリだ。そんな僕はお目当ての筐体『beatmania IIDX 5th style』に対面する。
格ゲーやSTGもいいが、やっぱりこれ、音ゲーも最高なのだ。LEVEL 7が最高難易度のこのゲームで、最近は一部のLEVEL 7をクリア出来るようになってきた。目標はLEVEL 7の中でも最も難しい「禁」に位置する「V」という曲をクリアすること。ところがこれがあまりにも非常識な難易度で全く手が出ない。僕は50円を投入し、お気に入りの「Abyss」や「JIVE INTO THE NIGHT」を選曲すると、最後に「V」に挑戦し、クリアゲージ8%でいつも通り轟沈する。
今日はなんだか楽しいぞ。2クレでもうこんなにも気分上々だ。ひとまず休憩して、店内にいる他の人のプレイでも眺めようか。ルールの良くわからない雀牌崩しのようなゲームをおじさんが遊んでいる。連邦VSジオンには少し歳上だろう高校生くらいの集団が群がって盛り上がっている。
僕は悟空に戻ると、本日のラストゲームをESPRADEに決めた。ラス面までは進むものの、最後のボスである「ガラ婦人」を惜しいところで倒せない。難所である4面ボスで、どれだけ残機とバリアを温存出来るか、今日も挑戦が始まる。こんな子供がラス面までいけるのが物珍しいのか、攻略を盗み見しているのか、このゲームを遊んでいると見学客がつくことがちょくちょくある。コインを入れていつものキャラ、JB-5thを選択すると、画面が暗転した際に後ろに一人のおじさんがいる事に気がついた。今日は最初からギャラリー付きか、腕がなるぜ。そんな事を思いながら、僕の愛機がステージ1に解き放たれていく。
こんな面白い毎日がいつまでも続きますように───。
