へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

HL2svの話

新稼働の話題作、星と翼のパラドクス(星翼)。
その専用筐体の強みはなんといってもそのゲームに特化した操作性がもたらす、家庭用ゲームでは味わえない、鮮烈な「体験」でしょう。

僕は星翼の筐体のシートに座る度に、同じシート型の、とある大型筐体ゲームでの強烈な体験を思い出します。

僕にかつてない衝撃を与えてくれたそのゲームの名前はハーフライフ2サバイバー。ジャンルは一人称視点シューティング、即ちFPSです。

晒しスレ初期ではプレイヤーの罪状欄に「ガッツポーズ」「お~いお茶2リットルの所持」という画期的な文字が並んでいた。対戦者8人中半数が有名プレイヤーのパクリネーム。公式が2chのネタをチャットに採用。等々、中々に圧のあるドラマを生み出した、世紀末を生きるモヒカンの社交場にして、ゴリラ達のダンスホールでもあります。

今日はそんなハーフライフ2サバイバー、通称「HL2sv」についてお話をしたいと思います。

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FPSは大嫌いなジャンルのゲームだった
仕事が忙しく、ゲーセンのモチベが低かった時期でした。地元の友達との待ち合わせ場所に、都合が良かったので、吉祥寺のゲーセンを指定した時のことです。新作ゲームの筐体が入荷しているのを見かけました。

HL2sv。そのゲームは、レースゲームに似たシート形大型筐体に、移動用の左手側レバーと攻撃用の銃型コントーラーが右手側に備わった本格的な大型筐体でした。

中学生の頃、友達にさんざん「007」で狩られたせいで、心の底から嫌いなFPSというジャンルのゲームだったので、興味もなく素通りしましたが、友達が「やってみよう!」と誘ってきたので1回だけプレイしました。

初プレイの感想は移動するだけで精いっぱいで、全く良くわかりませんでした。
特に楽しくもなく、このゲームの事は完全に忘れて家に帰ったのを覚えています。

……翌日の仕事帰り、忙しくて疲れてても、少しはゲーセンのゲームをやらないと、アケゲーマーとしての形を保てなくなってしまう ……と危惧した僕は、三国志大戦3というゲームをやろうと同じゲーセンに寄りました。

そこには昨日遊んでことを気にも留めなかった、あの筐体、HL2svが客一人寄せ付けず寂しそうに佇んでいます。

専用筐体でプレイ料金が高い。FPSという嫌いなジャンル。座って遊ぶのが少し恥ずかしい専用筐体。と自分がやらない要素が3つもあるあのゲームです。

昨日遊んで全く楽しくなかったそのゲームですが、なにぶん久しぶりに地元に入荷した大型筐体なので、こっそり3~4回くらいプレイしてから「あのゲーム、実はやり込んどるよ(大嘘)」と友達との会話のネタにしようと200円をまた投入しました。

2プレイ目も何も分からずやられました。もう一回200円を入れ、もう一回200円を入れ、もう一回……どういうことか、このゲームが楽しくて楽しくて仕方がなくなっていました。翌日からも、クレジットを目いっぱい投入して遊び倒してしまいました。

当時、夜勤のある日は17時に出勤し、翌朝の9時まで働いていたのですが、退勤するとちょうどゲーセンが開店する10時に店に到着することができたので、このゲームを夜勤明けの10時からゲームセンターが閉店する24時まで、14時間ぶっ続けて不眠でプレイする日がしばしばあるほどのめりこみました。

なぜこんなに急にハマったのか、当時を思い出して書いてみます。


■五感を投影する装置として、完璧だった筐体
大きな専用筐体に乗り込むというだけでも、まるでロボットに乗るかのような奇妙な高揚感を覚えました。このあたりは機動戦士ガンダム戦場の絆に近いかもしれません。

左手のレバーは移動用。倒した方向に進みます。
直感的に動ける作りになっていて、前線に駆けつける時にレバーを倒しっぱなしにする時は気持ちが昂ぶります。

右手で握る銃型レバーは攻撃に使います。
親指が触れる部分には武器を切り替えるためのホイールがついており、これを親指の腹で回して武器を切り替え、画面に向けて銃型レバーを動かして狙いを定めます。

そして人差し指でトリガーを引いて敵を撃つというダイナミックな面白さ。
銃の形をしたデバイスとして非常に高い完成度を誇っていました(この右手レバーの作りは、星翼と酷似しており、僕は思わず感じ入り、咽んでしまいました)

足元には左右にペダルがあり、ジャンプとしゃがみの動作が割り振られています。
息を殺し、物陰に隠れて敵を待つ時は、しゃがみペダルを踏む足にじわりと力がこもりました。

シート上部、頭の位置にはサラウンドスピーカーが備わっていて、銃声と爆発音が耳元で響く迫力には思わず呑まれます。
耳元でパスン…という小さな音が響いた時、偶然にも敵スナイパーの狙撃を避けたのだと気が付いて、そのゲーム内の戦場へ深い没入感たるや、衝撃的で言葉が出ませんでした。


この通りハーフライフ2サバイバーのプレイ感は両腕、両足、目、耳と、僕の全身に直接訴えかけるものでした。

今までにもゲームセンターには戦場の絆などの体感型ゲームがありましたが、僕にとってはこのゲームが初めての体感型大型筐体ゲームでした。


■最適な戦術は現場で構築する。何度やっても飽きの来ない試合
このゲームは4人vs4人のチームバトルで、プレイヤーは4種類(後期は5種類)のジョブから一つを選んで参戦します。

勝敗は時間内に敵に与えた総合ダメージで決まるのですが、キャラクターの組み合わせ次第で、幾つもの戦術が生まれました。

フィールドに罠に仕掛ける事ができる「エンジニア」が味方にきたなら、建物の中に罠を張りめぐらせて籠城戦をすることで、侵攻してきた相手に痛烈なカウンターをお見舞いしリードを保ったまま逃げ切って勝つ事ができます。

火力と防御力に優れた「ソルジャー」が多めの編成になったなら、正面突破力に任せ多少の犠牲は顧みず、全員で敵陣に雪崩れ込めば、一瞬で決着がつく事すらあります。

どんなジョブの仲間が敵味方に配置されるかはランダムなので、毎回とても新鮮な試合をすることができて、一試合終えたらもう一試合したくなる中毒性を備えており、もう一戦…いやもう一戦…と新たな戦場を求めて、コインの投入口に手をやるのが止まりませんでした。


■シンプルかつ完成されたチャット機能
このゲームは「右に行く」「左に行く」「突撃する」といった単純な定型文を送れる機能がついており、戦闘中に連携を取る事ができます。

非常にシンプルな定型文ですが、対戦マップで主戦場となる場所の殆どが、初心者がパッと見てもわかりやすく(大きな建物や広い地下があるなど)設計されており、実際その場所が主戦場になる試合が殆どです。シンプルな定型文で十分すぎるほど連携が取れるようになっています。

今では"充実したチャット機能"と称して様々な定型文を送れるゲームは珍しくありません。しかし、いくら登録されている単語が多くても内容がチームメイトに伝わらなければ本末転倒です。

HL2svのチャット機能は極めて単純でいながら、そういった問題点とは無縁でした。重要なチャットは押し並べてゲーム内のマップと相性が抜群であり、チャットもしっかりゲームの一部として組み込まれた、とても優れた設計となっていたのです。


■五感を駆使する鮮烈なゲーム体験
専用筐体が生み出す音と映像の臨場感と、仲間と力を合わせる戦場の光景は今でも忘れられません。

崩れたビルの瓦礫の下や物陰に仲間4人で集まり、息を殺して相手の襲撃にカウンターを合わせるタイミングを待った試合…

籠城する相手陣地に煙幕弾を投げ込み、全員で息を合わせて突撃し、力の限り戦い勝利をもぎとった試合…

三人が敵全員を引きつけて防戦し、その間に一人が相手の背後から奇襲を仕掛けて大勝利に終わった試合…

一見複雑そうに見えるこれらの戦術も、全て単純なチャットの応酬で容易に実現するゲーム自体の設計は見事でした。

今までこんな鮮烈なゲーム体験をしたことがありません。
敵の音を聞く。敵を見る。しゃがんで隠れ、ジャンプして突撃する。
そしてトリガーを引いて、銃を撃つ。

プレイヤーの全身を、五感を、戦場に投影する装置として、その筐体のデザインは素晴らしく洗練されていたのです。
例え一日に何度連コインしようと、初プレイから一年が過ぎようと、シートに乗りこむ際の昂ぶりが醒めた事は一度もありませんでした。


■楽しい時間はいつか終わり
そんなハーフライフ2サバイバーも2010年にサービスの終了を迎えます。

後継作としてサイバーダイバーというゲームがリリースされましたが、本作からは大幅な改修を受けており、本作独自の雰囲気とは異なった、また別のゲームとなっておりました。

もし、HL2svに出会う事がなければ、FPSというジャンルに偏見を抱いたままだったと思います。

そして、不得意なジャンルだろうと、楽しいという気持ちを糧にプレイを重ねていけば、自然と苦手意識は消えていくのだという、貴重な体験をさせて貰いました。

確かに、負けた時には噴火しそうなほどイライラもしたけれど、それでも、ただ楽しくて。全ジョブで最高ランク(SSS-Lv10)を踏ませて貰う事もできました。

(使っていて一番楽しく、また最も戦績が良かったのはスナイパーでした)

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今も日常的にこのゲームを遊ぶ夢を見るほど、大好きなゲームです。

星翼の筐体が、本作のエッセンスを継承していると思われる部分は幾つかあり、レバーを握っていると、最新作の目新しさと同時に、得も知れぬ懐かしさがこみ上げてきます。そのため、一等思い入れの深い作品として、思い出を書き殴った次第です。

叶わないとは思いますが、今でも続編をずっと待ち続けています。
素晴らしいゲームに出会えて幸せでした!ガッポイ