へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

メディアカフェポパイ

さようなら、ポパイ。

吉祥寺が誇る激安ネットカフェ「ポパイ」が閉店していた事を知る。
オープン席3時間500円、9:00-17:00の個室フリータイム1300円という、他を圧倒する破格の値段でありながらも決して設備が見劣りしているわけではない優良店だった。

ポパイは俺の駆け込み寺だった。
新卒で入った会社を3年勤め倒れて退職し、手始めの社会復帰に派遣や契約を転々としていた頃に何度ポパイの世話になったか分からない。
それどころか正社員として社会に戻った後も幾度となくポパイの入り口へ向かう階段へ足を運んだ。

朝陽に寝返りを打ちおぼろげながら意識が覚醒した瞬間に
「あ。今日はダメだ」と思う日が1年に2,3度は必ずあった。
ひとまず出社のため吉祥寺までバスで揺られてみるが、やはり戦えるコンディションじゃない。
そんな時に会社を休む連絡を入れてから向かうのは決まってポパイだった。

フリータイムを入れ、とりあえず新刊コーナーの気になる本を手にとって個室に向かう。
仕事を休むのだから二度寝でもすればいいものだが、本来なら働いている時間なので目が冴えている。
そろそろ朝礼が終わった頃だろうか。
主任がいつも通り部内を右往左往して資料を漁っている光景が浮かんでくる。
総務係長は会議資料を軽く読んだ後は普段と変わらず一日中スマホを弄りながら過ごすだろう、きっと今日もデスクの上に素足を載せて人目も気にせず爪を切っている。
事務長は慌ただしく偉い方のところを回って会議漬けなハズだ。

自分なんかいなくとも世界が回る事に一抹の寂しさを覚えながら、その寂しさをどこか温かく紛らわせてくれたポパイ。

「今日はダメだ」という感覚は幸いな事にここ2~3年は訪れていない。
だがこれから、何もかもを投げ出し責務から無様に逃げ無為に時間を過ごさねば心の均衡を保つ事が出来ない日がまた訪れないとも限らない。
その時に俺は大丈夫なんだろうか。
俺は何一つ変わっていないというのに、この世界に、ポパイだけがない。