へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

ゲームと友達(?)「ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドーオーバーミスタラ編」

ちょくちょく書いてる学生時代のゲームにまつわる友達の思い出話、今回は特定の人間に絞らず、あるタイトルをプレイしていて関わった人々の話をしてみる。

今回のタイトルはアーケードゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドーオーバーミスタラ』。


小学生の頃、親が買ってきたゲーメストという雑誌を読んで、ゲームセンターに興味を持ち始めた僕は、風紀の乱れた場所へ通う事について何度も窘められ、説教を受けたが、家で遊べるものとはまた違ったゲームが遊べるその世界に、ずっと魅了され通うのを止める事は無かった。

中学生になってからも、学校の帰りに、友達との待ち合わせ場所に、ゲームセンターへ入り浸る日々が続いた。

当時のお小遣いは月に1,500円。
遊び続けられるほどお金を持っていなかったのが、たまに外食してくるようにと食費を渡される時があったので、それをそのままゲームセンターにつぎ込んだ。

金銭面の問題のため、長く遊び続けられるゲームこそが、ただ一つの正義となった。
僕は特にシューティングゲーム(STG)に夢中になった。
1コインクリアが出来るようになると、この頃のSTGは大体20~30分ほどの時間を潰せたからだ。

ストライカーズ19XXシリーズ、ESPRADE、怒首領蜂、プロギアの嵐…これらのタイトルは上手な人のプレイを観察しつつ、自分でも敵のパターンを暗記して、上達していった。この頃入荷したSTGの殆どを50円玉一枚で1周目クリアが出来るようになった。

しかし毎度毎度STGでは飽きがくる。
その時、ゲーセン入り口に置いてあった今まで気にしていなかったゲームを、1コインで延々と1時間近く遊び続けているプレイヤーがいる事に気が付いた。

このゲームだ!このゲームで時間を潰せるようになりたい!と僕は強く思った。

それはダンジョンズ&ドラゴンズ シャドーオーバーミスタラ(以下D&D)というベルトスクロールアクションゲームで、簡単にいえば「ファイナルファイト」のようにキャラクターを動かし、敵を倒しながら、左右にスクロールするステージを進んでいくゲームだった。

タイトルから連想できるように、ファンタジー世界を舞台にしていて、プレイヤーは戦士や魔法使いといったキャラクター六人から一人を選択して遊ぶ。

行きつけの東伏見のゲーセンには、入り口に何故かずっとこのゲームが置いてあり、存在自体には気が付いていたのだが、ゲームセンターという特別な体験ができる場所で、家で遊ぶようなファンタジーRPGテイストの、ちょっとバタくさいイメージのゲームをやる気にはなれなかったのでスルーしていたのだ。

さっそく見よう見まねでプレイに挑むが、全10ステージ以上あるゲームにも関わらず、最初の1面すら越す事が出来ない。
それぞれのステージの最後には、強力なボスが待ち構えていて、これを撃破しなければならないが、このボスがどのステージでもかなりの曲者だった。

操作キャラクターは、戦士や僧侶、盗賊など、それぞれ個性的な技能を持っており、キャラクターによってゲームの攻略法が異なるのも、攻略する上での混乱を招いた。

僕はまず、操作キャラクターを六人の中から決めなければならなかった。
全員一度はプレイしてみて、その上で熟考する。

マジックユーザー…魔法使いだ。通常攻撃があまりに貧弱で、数で押される雑魚戦があまりにも大変だ。魔法にも使用回数に限りがあるので、効果的に使える場所を覚えないといけない。上級者用に見える、却下だ。

シーフ…盗賊だ。宝箱を開け放題なのはいいが、必殺技の操作が独特な上、耐久力も非常に脆い。防御性能の弱さがとにかく不安だし、操作もクセが強い。却下。

ドワーフ…亜人族の戦士だ。やや癖のある操作感だが、体力は抜群に多い。初心者にも優しそうだ。

エルフ…魔法剣士だ。接近戦も魔法もこなす万能キャラに見えるが、シーフと同じで耐久力がとにかく低く、剣のリーチも短く危険と隣り合わせだ。使いこなせそうにない。

クレリック…僧侶だ。武器が短いメイスなので至近距離での接近戦を強いられるキャラだが、回復魔法を使う事が出来る。ダメージを回復する手段が限られているこのゲームにおいて、回復魔法の存在には惹かれる。操作候補に挙がった。

ファイター…戦士だ。クセのない操作感で、高い耐久力をも持ち合わせており、初心者向けに見える。このキャラも良さそうだ。

……以上のプレイ感から、ドワーフ、クレリック、ファイターの三人に絞ってプレイをする事にした。

しかし、どのキャラも結局、ボスとのガチンコ勝負になると、トリッキーなボスの動きにみるみる耐久力を削られていき、すぐにゲームオーバーになってしまった。
本当に難しい…最後まで行くのは無理なのでは?と思い、少しD&Dから距離を置き始めた頃だ。
一人のプレイヤーがD&Dの筐体に座っていた。一時間、二時間とずっと一人で座っている。最初はどこかでやられてコンティニューをしたのだと、思っていたが、どうも違うらしい。
このプレイヤーは50円玉一つで、1クレジットで二時間以上遊び続けているらしかった。

画面に映るキャラクターは、剣も魔法も中途半端で、耐久力に難があり、ボスの攻撃が掠れば即座に致命傷になる、弱いキャラだと思っていたエルフだ。

そのプレイヤーは僕が見たこともない連撃を繰り出しては、たちどころに敵を処理し、厄介な雑魚の群れは魔法で一掃。ボスの攻撃には的確に連撃と魔法を合わせ、危うげなくゲームを進めていった。しばしば見たこともない隠し部屋に入っては、宝箱を回収しながらゆっくりとコーヒーに口をつける。とても、とても贅沢な1クレジットに見えた。

それにしても、器用貧乏な魔法剣士かと思っていたエルフが、剣も魔法も両方極めた達人に見え、驚きを隠せなかった。確かに耐久力は低いが、魔法を緊急回避の目的で使用すれば被弾することもない。

この超絶プレイを見た僕は、いつも書き込みをしている休憩コーナーの交流ノートに「D&Dで上手いエルフ使いを見た。ああなりたい」と書いた。

すると、その方から書き込みに返信があった。「よければ一緒にやりませんか」と。
こうして僕は人生で初めて、友達ではない見ず知らずの人とゲームセンターで交流を持つことになった。

この人はシェードさんと名乗り、D&Dのスコアランカーだと語った。
20以上は歳が離れていると思われる、三十代後半くらいの人だった。

僕はシェードさんから、隠し部屋の場所、ボスをハメ殺すテクニック、基本的な攻略操作などいろんな事を教わった。
しかし、あんまり東伏見には来ない人で、レクチャーも数回、数時間授けてくれたところで、いつしかぱったりこなくなってしまった。

けれどシェードさんから、たくさんのテクニックを教わった僕は、みるみる先に進めるようになり、難関のステージ3を突破するやいなや、そのプレイでなんと一気にステージ6まで一足飛びで攻略を進めた。
いつも10分でやられてしまっていたゲームを、倍の20分近く遊ぶことができた。達成感が体にみなぎって、その場で踊り出したくなるくらいの充実感が体を駆け巡ったのを覚えている。

「敵をダウンさせたら頭側に回って追撃するんだ。そうすると反撃を受けない」
「このボスは危ない攻撃が多いから、緊急回避のアイスストームは出し惜しみしちゃだめだ」
「こいつは強敵だけど、この氷の剣さえあれば簡単に倒せるんだ」

シェードさんが教えてくれたことを思い出しながらプレイを重ねる。僕は彼を倣って、エルフを使用キャラにしていた。

一度斬りつけた敵を死ぬまで逃さない連撃も覚えた。
攻撃魔法を出し惜しみしないタイミングも覚えた。

中学三年生になったある日、僕のエルフはついに最後のボスである、巨大ドラゴン・シンの喉元に刃を突きつける。
シェードさんの真似をして、大して美味しいとも感じなかったコーヒーを買って缶を置きながら、一時間以上、贅沢な時間を50円で過ごせるようになったのだ。

それから月日は過ぎて、東伏見のゲームセンターも潰れ、いつの間にか僕は大人になった。財布の事情も娯楽の事情も、中学生の頃とは変わったから、1クレジットで長く遊べるゲームをもう求めてはいないのだけれど、僕は今でも毎月必ず、このゲームを秋葉原のゲームセンターまで遊びに行く。

使用キャラはエルフ。筐体の上には缶コーヒー。初期装備の選択もシェードさんと同じサークレット。
今もずっと、あの頃からシェードさんスタイルだ。




このゲームで経験した出会いはシェードさんだけではない。
もう一つの奇妙な思い出を語ろう。

それはシェードさんの教えにより、ある程度攻略も慣れてきた頃の事だった。いつものように一人でD&Dに興じていると、いつの間にか隣の3P・4P側筐体からクレジット投入音がするではないか。

「…??」

横を見ると、なんと知らん学校のヤンキーどもが勝手にコインを入れていた。
すぐ隣の2P側にも、グループと思わしき男子生徒が腰を掛けて座り、こう言い放った。

「やろうぜタク!」

タクというのは、いつも使っているキャラクターネーム(このゲームは序盤に名前入力画面がある)だ。それにしても、誰だか全く知らず、心当たりがない。それもそのはずで、彼らは全くの他人だった。
恐らくは同世代くらい、または高校一年生くらいだろうか、全員が着崩した制服に染めた髪をしていて、明らかにこのあたりの学生では無かった。

急に絡まれて、だいぶ及び腰になったが、悪意は無さそうなので一緒に遊ぶことにした。このゲームは4人まで同時プレイが可能なのだが、プレイ人数に比例して難易度が上がる仕組みになっている。
そのせいで1人プレイ時に比べ格段にパワーアップしたボス達に、何度も粉々にされたが、全員で爆笑しながらもコインを連続投入して力技で4人でゲームを進めていく。

「タク!ポーションあるぞ!取れ!」
「魔法だ!拾え!」

彼らは僕がこのゲームに熟練しており、明らかに被ダメージが少ない事、敵への有効な処理を知っている事を理解したようで、ゲーム内のアイテムを優先的に僕に回してくれた。彼らのキャラクターは敵の攻撃を対処出来ずに、無慈悲にもバタバタと倒れていく。断末魔の叫びとコンティニュー音は交互に、途切れる事は無かった。

僕はコンティニュー1回で、彼ら3人は合計して10回以上コンティニューしたはずだ。
力押し極まった強引なプレイで、なんとか僕らは4人でこのゲームをクリアする事が出来た。クリアした後の事は良く思い出せないが、なんとなく楽しげな雰囲気で彼らと別れたような気がする。


結局彼らがどこの学生だったのか分からず、そもそも一人として名前すら不明のままだ。彼らは常連ではなかったので、あまり顔を合わせる機会もなかったし、その後も一緒に遊んだことはなく、この時を含めて確か3~4回しか会わなかった。

最後に見かけてから、3年か5年か、詳しくは覚えてないが、かなりの時間が経った、ある日の夜。
潰れた東伏見のゲーセンの、隣の駅に用事があり近くの踏切で、信号待ちをしていた。すると踏切の向こうに、僕に向かって、何やら声を荒げて両腕を振り回しているバイク乗りの連中を見かける。
なんだ?怖いヤンキーが威嚇してきてる…目を合わせんようにしよう…と目線を逸らす。しかし、やがて彼らがある言葉を叫んでいる事に気が付いた。

「ワレニカゴー!!」
「タクーー!!ワレニカゴー!!」

ハッとした。良く見ると、連中はあの時D&Dを遊んだ彼らだ!!
にわかには信じられない。
連中は一回遊んだだけの僕の事を覚えていてくれたのだ!

僕も気が付くと、夢中で手を振って、力いっぱい何度も叫んで応えた。

踏切が開ける頃には、連中はこちらに向かってひとしきり叫び終え、バイクで反対方向の坂の上に走り去っていった。

たまたま用事があって東伏見方面へ向かった日なので、本当に偶然の再会だった。それ以来そこへ行く用事も殆どなく、行っていない。あれからは一度も、あのろくでもないヘンな一日だけの戦友達の姿を見かけてはいない。