へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

ひこくえすと2

登場人物

被告:主人公
かよこ:謎の人
ナナ・イチ:かよこの部下

あらすじ。
刑期159万年の国家指定咎人「被告」は琴弾財閥よりある至宝を盗み出す。
電子世界を通り逃走を計る被告に、琴弾財閥の差し向けた25人の最高裁BAN官が迫る。

もう、うんばらほ。






無意味なデータの列となり電子空間上に四散した同胞に
鉄壁の意志が揺らぎを見せたのも一瞬。
黒衣の裁BAN官達は密集隊形を取り被告へと対峙した。

「さすがは世界に名を誇る最高裁BAN官達だお…
 仲間がはじけとんだというのに表情すら変えないとは」

情状酌量の余地なし」
「我らが命に代えても」
「彼の者死刑に処す!」

先頭の裁BAN官が、左手に持つ六法全書の中に右腕を沈めた。
膝を屈め、居合いの姿勢から被告へとただ一歩にて瞬時に間合いを詰める。
被告の首筋めがけ、六法全書に埋めた右腕を抜き放つ。

白刃が煌き、被告の首が"あった"空間を大鎌が断つ。
引き裂かれた空間より、漢字、数字、あらゆる2バイトのデータが流砂のように零れ落ちた。

先頭の裁BAN官の一撃をすんでのところで回避した被告に、
2番目、3番目──秒間4人のペースで後続の裁BAN官達の一撃が迫る。

一撃を、身体超化による瞬速移動により回避し、
一撃を、刃が体を通りぬける瞬間に肉体の一部を位相転移することにより回避し、
一撃を、電子空間上に漂うデータを具現化させた盾により受け流した。

回避された刃の返し刃の返し刃がまた返し刃となり、被告を無制限に襲った。

ただでさえ無理を強いて付与プログラムを多重起動していた被告の、爪が、髪が、皮膚が、
無意味なデータへと文字化けして肉体から乖離していく─。

「ち─ちょ、お前ら緯ュ…いい加)逐ょ"・・ゆ梳にしろよ─!!」

被告は自分の存在する電子空間上のサーバにログイン。
不正なアクセスとして強制切断される1秒の間に座標データを改竄。
急激な地相の変化により24人の裁BAN官は、自己存在座標の修正の為に僅かな隙を作った。

その僅かな隙、被告は己の五指、両手合わせ十指のそれぞれの指の隙間、
合計8つにそれぞれ3本ずつの銀のスプーンを具現。
24人の裁BAN官目掛け、一本ずつ正確無比に投擲した。

「ぬっ─?」
「ぐ─!」

その在る一本は彼の額を貫いた。
その在る一本は彼女のこめかみに突き刺さった。
その在る一本は彼の肩口に減り込んだ。
その在る一本は彼の心臓を射抜いた。

しかし、そのどれもが致命傷には到底至らない一撃であった。
心臓を損壊した裁BAN官は六法全書と神経を接続、流出した血液の代わりに法を循環させ活動を継続。
頭脳を損壊した者も、体の一部を欠損した者も、各々がダメージを受けた箇所に法を流し込んで戦いに参加した。

罪人を裁く絶対なる規律を、血肉の代わりに肉体へ循環させた法の体現者。
彼らは再び隊を成し、四方より避けられぬタイミングにて、同時に大鎌を被告の咽笛めがけて振りかぶった─瞬間──

裁BAN官No.4は心臓を四散させその場に崩れ落ちた。
No.5は肩口から全身を無意味なデータ列へ変化させ消滅した。
No.22が頭部からつま先へと順番にアラビア数字となり崩れ、
No.13はテクスチャの剥がれた3Dモデルの如く体表をぼろぼろと消失させていった。

「─な」
「何が」

何が起こったのか理解し難いが、No.25、No.7の両名は怯まずに被告へと斬りかかった。
彼らの大鎌が被告の鼻先へ迫った瞬間、No.25、No.7の鎮魂歌が奏でられた。

──潜伏型ウィルス"トロイホース"
起動のトリガーとなるアクションは「術者への攻撃」

「迂闊な攻撃は控えろ─!」
「各位、抗電子トリックの頁を開け!」

生存した裁BAN官は指を使わずに六法全書をめくり対電子空間専用のページを開き、
記述された防御用の法を宣言した。

─No.1、No.2、No.6、No.8、No.12、No.14、No.18、No.24の肉体が爆裂し、四散し、消失し、消滅した。

彼らに埋め込まれたトロイホースの起動トリガーは「自己の防御」

「馬鹿な─」

No.9、No.16、No.21の体が、精神が音も無く瓦解する。
3人に埋め込まれたウィルスの起動トリガーは「思考の停止」

「一旦引くぞ!」
「加代子様へ報告を─!」

電子空間の外へ脱出する為のスペルを詠唱したNo.10、No.15、No.19の肉体が電子の海へ漂う塵と化す。
彼らにかけられた起動トリガーは「戦術的逃走」

「…君達へ埋め込んだウィルスの制御文は"混乱"だったんだけど
 さっすが裁BAN官。一瞬思考停止するやつがいても混乱しだすやつはいないお」

攻撃も行わず、防御も行わず、逃走もせず、ただ一瞬のチャンスを待ち
反撃を思考していたNo.17、No.20、No.23の3名へ向かって、
身体超化プロセスにより多重に強化された単純な物理的打撃をもって被告はうちかかった。

鈍い音が響き、無意味なデータの数が余計に多く電子の海へと浮遊した──

          * phase2 *

「申し訳御座いません。管財人リスレと、その全てに関わる情報、
 及び財産について探られました。その結果─」

「言わなくても良い。大きな痛手だな、ナナ・イチ」

「重ねてお侘び申し上げます。いかなり処分をも覚悟の上で御座います」

「─確か、リスレの登録住所はナメック星であったな…?」

「…はい」

「この分の不始末─ヤツを捕らえる事により清算せよ」

「かしこまりました。このナナ・イチ、高級サングラスにかけて─」

遠ざかるナナ・イチの足音を聞きながら、その人物は呟く。

「全く…25人の裁BAN官が全滅したとなれば、現在公判中の田代など
 判決前に釈放されてしまうではないか…こうなってはもう50年ほどは
 この国の犯罪者は裁ききれないな。


 ───本当に楽しませてくれるよ、被告…」

          続く(たぶん)