きんつばさんの屋外ぷりぷりの記事を見て、閉ざしていた一つの記憶の扉が音を立てて放たれた。
たくま少年が9歳くらいの頃だったと思う。
当時住んでいた家の近所に、石神井台7丁目アパートという団地があった。
その団地の真ん前に、名前のない公園がある。
Googleの地図データにすら名前の登録が無い、正真正銘名無しの公園である。
敷地は20平方メートルくらいだろうか、砂場、滑り台、鉄棒、水飲み場を一つずつ備えており、園内に生えた一本の低木は枝が太く、登ってビニールシートを張り秘密基地を作ったのを覚えている。
そこで違う小学校に通っていた少年達と仲良くなった。
彼らのうち一人の名前も覚えていないどころか、互いに名乗ったかどうかすら怪しい、とにかくその場だけの刹那の出会いであった。
そんな少年達のうちの一人がこんなことを言う
「そこの滑り台には魔女の霊が乗り移っているから、ウ〇コを置いてやっつけなきゃいけないんだけど、そんな勇気のあるやつはいないよな?」
今思い返してみても、この発言の意図するところは全く不明である、意味がわからない。
彼の発言に勇敢に挙手したのはたくま少年こと僕だった。
「俺、やれる」
この後の記憶は一部が丸ごと欠落しており、かなりおぼろげである。
ハッキリと覚えているのは、滑り台の上に置かれた何かしらのフン。
「本当にやりやがった!」
というような事を絶叫しながら散り散りに逃げる少年達。
そして取り残された僕。
である。
記憶のカケラを可能な限り拾い集めて状況を整理する。
砂場に置いてあったシャベルを使って、何かしらのフンを滑り台の上に置いた。
間違いなく、僕が置いた。
しかし当時のそれなりにはつらつとしたガキであった少年達がそれだけで霧散するように逃げるとは考えにくい。
そう、もしかするとなんだけど、この時、僕、滑り台の上でウ〇コをしたんじゃないか???????
あのフンは野良猫のフンではなく、僕のものだったのではないか???
思い出せない。
分からない。
すっぽりと欠落している記憶と、最悪の想定。
本当にウ〇コをしたのかどうか、分からないのだ。
砂場に落ちてた猫のフンを置いただけのような気がするが、もしかしたら屋外ウンティをした可能性がある。
「やりやがった!」
その言葉は僕の勇気を称えるトーンでは無かった気がする。
僕はもしかすると、この時に屋外排泄という経験をし、人間の尊厳を、大切なみさおの一つを失ったのではないか。
確かめる術がない。
記憶は穴ボコの空いたチーズの様相を呈していて、大事な部分だけがポッカリと虚ろな空洞を見せている。
タイムマシンが完成したら。
真っ先にやる事がある。
あの日、あの場所、石神井台7丁目アパートの公園で
僕はしてしまったのか、していないのか。
それだけを確かめにいきたい。
-終-