へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

イタコ術

20代前半で一度無職になってからバイトしたり、その後正社員になってから色々転職したりもすると、職場で沢山の人に出会います。
今までに出会った同僚達の仕事に向かう姿勢が、たまに自分の力になってくれたりするんですよね。
あの人の仕事の仕方を学ぶ。
つまり口寄せの術、イタコです。

デキるサラリーマンなんかはデキる上司達の姿勢を学ぶ事でビジネスシーンの最前線に立ち続けているハズです。彼らもまたイタコです。


今日はそんなデキるイタコ術とは真逆の、ほどほどにダメなイタコ術を僕が使っているという話をします。


▲梶原さんの弛緩術
初めて就職した会社に、ほどなくして後から入ってきた梶原さん。
南原清隆と松井秀喜を足して2で割った感じの、細身でメガネの兄ちゃんだった。
業務委託でどこからか来たのか、本社の契約社員かなんかだったのか、詳しくは覚えてない。
とにかくこの梶原さん、僕が初めて社会に出て初めて見たテキトーな姿勢の人だった。
その現場は仕事を覚えて序列がアップすると名簿の順番が変わり、特定の順番まで来るとサブリーダーとなるが、僕がサブリーダーに上がった頃も名簿で下から三番目くらいに掲載されていた気がする。

現場では各々が今抱えているタスクをビジネスツールで可視化していたが、全員が2~3件の業務を抱えた頃になってようやく「あ。あっしが次の電話とりやす」と重い腰を上げる。それまではパソコンの隅にヤフーニュースを開いてぼーっと眺めている人だった(もちろん業務中にそんな事をするのは許されていない)
そして定時になるとシュバババと帰宅する、そんな人だった。

僕が梶原さんを見てだらしない人だ…とか、せめて全員と同じ量の仕事をしてくれ…と何度思ったか分からない。初めて社会に出た僕は、とにかく破裂するほどのタスクを抱えた過剰に積極的という姿勢こそが良いものだと思い、全員が2件ほどの業務を並行して処理する中で自分だけが4,5件のタスクを受け持っている状態を維持し、そこからなお仕事を取っていた。
当時の読者ならご存知だが、3年後、結果的に僕は通勤中に気を失い吉祥寺駅の交番前でバタリと倒れ、救急車で運ばれ仕事を辞める事になる。


それからは、これ俺だけが大変な思いするのなんで?という仕事や、俺これ頑張る必要ある?という場面に直面したり、定時帰りを許さない無言の圧力を感じる職場に配属された時には、梶原さんの弛緩しきった業務態度を憑依させる事にしている。
まあ実際にはそんなイタコ芸が許されない状況というのはままあるのが仕事だけれど……しかしあの頃は職場の敵にしか思えなかった梶原さんが、今では僕の人生の味方をしてくれているのは事実だ。僕には思い詰めて物事を考えない、テキトーさが必要だったのだ。

「あ~、あっしはお先に失礼しやす」
間の抜けたトーンで喋る、何故かあっしが一人称の梶原さん。
どこか憎めない人だった。


▲山田さんの仕事してます術
もう一人だけ忘れられない人がいる。
ある会社で一緒になった山田さんだ。
山田さんは任された実務は完遂するし、自分の興味がある分野では過剰に情熱をかけ成果物をどこまでも豪華にしていく。ただし興味がない分野への取り組み方は冷めきっていて、ある仕事について「この業務はやれません」と断言し、全体の業務の割り当てに混乱が起きた事もあった。

そんな山田さんは、仕事をしている感じを出すのが抜群に上手い。

彼は担当業務的にどうしても暇を持て余す日が出ていたが、その時になんでもない作業をする事を大げさに修飾して伝える力を持っていた。
何より、小技の振り方が上手すぎる。
例えば一日仕事をせず頑張らない日を作る為に、わざと上司へ業務の細かい部分の質問集を作って投げたりするのだ。
つまり「上司へ自主的に質問を投げ、帰ってきた答えを咀嚼し業務の見直しをする」という積極性をアピールする動きを見せる事で隙を最小限にしている。時には面倒がらず自ら動く事で、後の大きな楽を買うのが彼の上手いところだ。

こういう小技のレパートリーを多く持っていて、振るタイミングも卓越している。
その立ち回りはまるで格ゲープロだ。
彼はこの小技を振った日は一日中ゲームのサイトとかを見ている。

ただしまぁ問題児というレベルでは無いし、仕事もこなす。
自分の業務をこなせれば、適度にラクをするための仕事してます術を使うのが精神衛生上はとても良い事だ。
当然、僕もこういった小技を振る時には自らの領分である仕事はきっちりと終わらせているし、もしくは次の仕事の準備が出来ている時に限っている。
山田さんから僕が学んだテクニックの一つである。



と、そんなわけで今はどこで何の仕事をしているか分からない梶原さんと山田さん。
この二人から学んだダメなイタコ術は僕の血となり肉となり僕を今日まで生かしてくれているのでした。

いやまあ本当に将来の血となり肉となる能力が欲しいなら、デキる人のデキる姿勢を取り入れるイタコ術に精を出すべきですが、そんな事をしていたら僕は将来という年齢に到達する前に死んでしまうので、僕に必要なのはダメなイタコ術なんですよね。結局は自分を把握して自分に適切な生き方をしていきましょう、ということ。