へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

ゲームと友達「RPGツクール2・清水君編」

久しぶりにゲームにまつわる友達の話を更新。

今まではゲームを通じての友達との何気ない思い出を書き連ねてきたが、今回は僕が友達とそのゲームに対して行ってしまった、愚行であり裏切りである一つの不義理の話を告白する事で、あの日の過ちを振り返りたい。




小学校から中学時代にかけて、清水くんという友達と良く遊んだ。
彼は抜群の成績を誇り性格も明るく、学級委員をも務める優等生だったが、同時に小学生らしからぬユーモアをも持ち合わせ、頭が固いタイプの生徒では無かった。

不良とまではいかずとも、落ちこぼれた成績かつクラス委員をやれるような人柄でも無い僕が、品行方正な彼と接点を持ったのはやはりゲームという共通の話題があったからだ。

出会いについては未だに詳しく思い出せる。小学4年生に上がったばかりの僕は落書き漫画を描くのを趣味としており、4年生になった登校初日に、ノートに動物をモチーフにした獣人のようなキャラクターを創作すると、それを面識の無い今日会ったばかりの清水くんに当てはめて「これは清水くんだよ!」と唐突に言い放ったのが始まりで、交流する内にお互いゲームが趣味である事が分かり良好な友達関係を築いた。

清水くんは家柄も立派であり、武家の末裔だという。実際に彼の家で家系図を見せて貰った事があり、居間には古びた兜の一式が飾ってあった。

かたや武門の一族で明るくユーモアを持ち合わせた優等生の彼。
かたや勉強もダメでどちらかといえばクラスの隅が似合う自分。

何から何まで正反対の二人であるが、心情的に隔たりを感じる事は全く無かった。少なくとも僕にとって彼は、ただゲームが好きなだけの気心の知れた友達で、それ以外の何者でも無かったからだ。

彼とは「ファイナルファンタジータクティクス」や「人生ゲームDX」について良く語り合ったが、最も思い入れの深い作品といえば「RPGツクール2」である。

良く二人でRPGツクール2で作ったRPGを互いに遊び、感想を交換したものだ。


…さてRPGツクール2とはどんなゲームか。一言で言えば自分でRPGが作れてしまう夢のようなスーパーファミコンソフトである。前作「RPGツクール SUPER DANTE」からあらゆる性能面がパワーアップしており、制作できるRPGの自由度が飛躍的に向上し、演出面も豪華になった傑作と言える一本だ。

僕の作った妙なRPGは清水くんに大いに受け、それから彼もソフトを購入してはお互いにRPGを作って贈り合ったり、友達を大勢呼んでRPGをお披露目したりした。

僕が作ったそれは、RPGというには趣向の違いすぎるものだ。
村や町に入るとそこには大量の村人が棒立ちしており、彼らは大抵悪人である。それらに話かけ次々に成敗していくという内容だったが、RPGならでの戦闘はなく、画面上でキャラクターの移動や効果音、フラッシュなどの画面演出を合わせてバトルシーンを再現したようなものだった。

例えば、村人に話かけるとその村人が悪逆無道の嗜好を持った悪人である事が判明し、主人公は怒りに燃える。主人公キャラの位置をその村人の位置まで移動させ、画面をフラッシュさせ打撃音を再生し、その村人を画面の端まで高速で移動させることで、主人公が悪人を殴り飛ばしやっつけた…というように見せていた。

悪人に混じった罪の無い村人も何故か一緒にぶっ飛ばしたり、ただのおじいさんを暖炉に突き落とすというような不謹慎なシーン(しかも主人公がこの際に「芸術は爆発だ~!!」などと叫ぶ)が随所に盛られており、それが清水くんにやたらと受けたのを覚えている。優等生とはいえ、年相応の悪童めいた童心を持っていたのだろう。

RPGツクール2に熱中し、RPGを作っては清水くんの家に持ち込む日々が一年ほど続いたあたりで、僕らの興味は別のゲームに移っていき、小学六年生になる頃にはRPGツクール2はすっかり忘れられていた。



小学六年生の秋。
僕は飽きもせず何度目かの「ロマンシング サ・ガ3」のクリアや「真・女神転生if...」の攻略に勤しんでいたが、急にまたRPGツクール2が遊びたくなり、ソフトを引っ張り出す事にした。

ところが僕の持っていたRPGツクール2は長きに渡るプレイのせいか、セーブデータの保持が出来なくなってしまっていた。RPGを幾ら作り込んでも2日や3日ほどすると、全てのデータがさっぱりと消え去ってしまう。ゲームを起動する度に、エディットモードのBGMがデフォルトにリセットされ、データの消失を無慈悲に告げてくる。

頭によぎったのは清水くんの事だ。
そうだ、彼はソフトを持っていたし暫く遊んでいないからデータも作っていないだろう。
借りることにしよう、と。

さっそく連絡網から電話番号を探し、清水くんへと電話をかける。
電話口に出た彼に、RPGツクール2を貸してほしい旨を伝えた。

「いいよ!適当に付け足しちゃって!」

それだけ言うと彼はソフトの貸し出しのための待ち合わせ場所を指定して電話を切った。"付け足す"という言葉の意味が分からなかったが、とりあえずその日に彼と会って肝心のRPGツクール2のソフトを借り受けた。

家に帰り遊びたくてたまらなかったRPGツクール2を起動する。彼の言った"付け足す"の意味を理解し、高揚した気分はそこで打ち砕かれる。


そこには既に清水くんが作ったゲームのデータがあった。
彼の言葉は「自分の作ったゲームに自由に内容を付け足しても良いよ」という意味だったのだ。

彼の作ったRPGはゲームとして完成しているものではなかった。
キャラクターデータとアイテムデータ、作りかけのマップが少し存在しているだけ。


"付け足すなんて冗談じゃないや"
"こんな中途半端な作りかけを放置してRPGを作った気でいたなんて"
"俺のほうがもっと上手に作れるのに"


仄暗い気持ちが炎となり胸に灯る。
その炎が広がるのを止めることは出来なかった。


僕はデータを初期化するボタンに手をかけようとする。


ふと、作りかけのキャラクターデータに、清水くんが大好きだったキャラクター「ザ・キング・オブ・ファイターズ」のクラークがいるのを見つけた。

彼がどんな思いで自分の好きなキャラクターをデータとして登録したのか、僕はあろうことか、そこに思いを馳せて少し考えた上で…その上で、ついにやってしまった。




「借りたソフトさ、データ消えてたよ」


この頃一番の親友だったと言っても過言ではない清水くんが心を込めて登録したであろうデータの一切を消し去った上で、最悪な嘘を吐いてしまった。自分の欲求を優先するあまりに。

…別段、この事が彼の知るところになり二人の仲が悪くなったわけでもないし、それどころかもう遊ばないソフトだし別にいいや、と彼は気にせず笑っていたのを覚えている。

しかしこの日、自分が友達をこっそり裏切ってしまったこと。
その小さな悔恨の火が、時折甦っては自分の心を焼き苛む。


清水くんは中学三年生になると、難関高の入試に挑戦するために学校を殆ど休んで家で猛勉強をしていた。彼と遊ぶ機会は完全に断ち切られ、たまに彼が学校に顔を出した時に冗談の一つや二つを言い合って笑うだけ。中学校を卒業した後に、彼は家の都合で遠くへと引っ越してしまい出会う事も叶わなくなった。

毎日のように家を訪ねゲームの話に花を咲かせユーモアを磨きあった清水くんは、僕の人生の中でも特に好ましい関係を築けた親友の一人だ。その彼の預かり知らぬところで、しかもお互いの大好きなゲームに対して不徳を働いてしまったこの事を、今でもしばしば思い出してしまう。



要領が悪く口下手な自分でもゲームを通じたお陰でささやかな友情を育めたという、ゲームというものが持つ力と、その力が持つ小さな奇跡を、僕はこのゲームと友達シリーズにて綴っている。

ならば、清水くんに過去に曲事を犯した事をただ恥じて内罰的になるだけでなく、いつまでもゲームに対して、そして友人に対して、誠実である事の教訓としたいと思い今回は筆を取った次第である。