へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

ゲームと友達 ロマンシング サ・ガ3 青木くんと田村くん

ほのぼの?したなんでもない日常の思い出の話。

ロマンシング サ・ガ3ことロマサガ3はスーパーファミコンから様々なハードに何度も移植されているスクウェアソフトの名作RPGである。
アクの強かった初代と2から大幅に作風が変わり、有り体にいえば『万人受け』する内容へと進化を遂げた本作は、タクマ少年の通う小学校でもクラスにプレイヤー数を増やした。
初代や2は持っていないが、3だけは持っているという友達が自分以外に4人いた。
その4人とはゲームと友達RPGツクール2編に登場した清水くんと、僕と奇妙な常連に登場した高橋くん、そして小さい頃から家が近くて仲が良かった青木くんと、野球クラブに通っていた田村くんだ。

ある日、僕は青木くんの家に呼ばれて彼のロマサガ3を進める手伝いをすることになった。
僕はこの頃、クラスメイトから「出張RPG攻略屋さん」を請け負う事がしばしばあり、ゲーム中の難所の攻略や難敵の撃破を任されることがあった。

青木くんから出張RPG攻略屋さんへの今回のオーダーは
「ボス敵であるフォルネウスを倒してほしい」
というものだった。

ロマサガ3における4体の大ボス『四魔貴族』の中でもその強さからひときわ存在感を放っているのが魔海侯フォルネウスだ。
コイツを難敵に押し上げている理由は一つ、確率で即死付与の効果を持つメイルシュトロームという強烈な全体ダメージ技の存在である。
特定の装備品で即死効果を防ぐことは出来るものの、インターネットなど一般に普及していない時代でありそういった攻略情報を仕入れる事も難しい。
即死を防げても一撃でパーティを半壊に追い込むダメージ自体は軽減できず、しかもその装備品を身に着けるとフォルネウスの特定の攻撃(落雷)で弱点を突かれるようになるというデメリットまで存在している。

小学生の、それもRPGに不慣れなプレイヤーには撃破のハードルが高いフォルネウスだが、タクマ少年は伊達に『攻略屋さん』を請け負っちゃいない。
既に数回のクリア歴を持っておりフォルネウス対策もお手の物なのである。

しかしながら熟練の技巧を以てフォルネウスを打ち倒す、というような攻略法を当時の小学生が思いつくはずもなく、タクマ少年による攻略法とは『キャラを強化して力任せに突破』というものだ。
青木くんの家に到着するとさっそくロマサガ3のコントローラーを任されたタクマ少年は、フォルネウスの本拠地『海底宮』と宿屋を往復しキャラの強化に励みながら青木くんとの雑談を楽しんだ。
彼の家に到着した時点でゲーム内のパーティを吟味し、フォルネウスを打ち倒すに十分な能力を備えていると踏んだが念のためのレベリングである。

「青木くん、装備変えるぜ!術防御もバランス良くしないとフォルネウスはきついんだよー」
「そうなのか。タクマくんの好きなように装備変えちゃってくれ!」

和気あいあいとしながらゲーム内で準備を進め、いざフォルネウス戦へと突入する。
キャラクターのHP、所持技、装備とも悪くない仕上がりであれど確実に勝つことは難しい。
ロマサガ3におけるボス攻略で最も肝要なものは『運』であり、このフォルネウス戦もいかにコイツが大技の『メイルシュトローム』を撃ってこないかにかかっていた。


挑戦して暫くの時間が過ぎた。
何度挑んでも、無慈悲に放たれる2発目の『メイルシュトローム』がパーティを全滅させていく。
もともと攻撃偏重のシステムをとっているロマサガ3は、戦闘中にダメージを受けた場合、HPを回復させるよりも攻撃行動に終始した方が勝率が良い傾向にある。
そんなわけで1発目のメイルシュトロームを喰らったところで構わず、ひたすらに攻撃行動を選び続けるタクマ少年だが、2発目のソレにパーティが耐えきれず、フォルネウスを倒すことができない。

4,5回目の挑戦だっただろうか、フォルネウスの攻撃行動がかなり緩く、着実にダメージを稼げていた、その時青木くんの家のチャイムが鳴った。

「今日ロマサガ3やってるんだってー?遊びに来たよ」

野球クラブに通う同級生の田村くんが遊びに来たのだ。
もともと今日、青木くんにロマサガ3をやるから見に来てと誘われていたらしい。
ゲーム画面では絶え間なく攻撃を浴びせられ、撃破まであと一息かというところでフォルネウスが『メイルシュトローム』による逆転を試み、パーティは惜しくも全滅してしまった。
すると何を考えたのか青木くんが一言。

「ねえ、たむちゃんが遊びに来たからフォルネウス怒ったんじゃないの?」

と、無邪気に意味の分からないことを言ったのだ。
そして当時、年相応のガキンチョであったタクマ少年も便乗し

「もうちょっとだと思ったのに、やっぱたむちゃんが来たからフォルネウス強くなっちゃったよ」

と口々に田村くんに詰め寄る。

「なんでだよ~~」

苦笑いしながらも確かな悲しみを湛えた田村くんの表情をおぼろげながら覚えている。
結局その日、フォルネウスを撃破するまで田村くんは"青木くんの部屋の外に締め出される"という理不尽な扱いを受け、フォルネウスを撃破できたのは田村くんが締め出されてから30分ほど経ってからであった。

「倒せたーーーー!」
「やった!やっぱりたむちゃんが来たのが悪かったんだ!」

それはないと思う。
それはないと思うが……許せ田村くん、当時は僕も青木くんも、フォルネウスの魔力の前にきっとどうかしていたのだ。

ともあれこの日はロマサガ3という傑作RPGの魔海侯フォルネウスという一体のボスに三人……いや、主に一人の少年が振り回されたというなんでもない遠い日の思い出が出来たのであった。