へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

雑多文章録180 異端の男M

僕の中学時代の友達はどいつもこいつも個性派だった。

サクラ大戦の新作が出ると翌日学校を休むA君
無口で誰とも会話しなかったのに話しかけてみたら超面白い奴だったY、
英雄の条件は虐殺であると最後まで僕と語ってくれた生徒会長補佐S君。

その中でも忘れられない漢がいた。
仮にM氏と呼ぼう。


いきなりだが、奴は登校拒否児だった。

最初はからかうのが面白かったのでグループでよくちょっかいを出していたのだが、奴のあまりのクオリティの高さに虜になった僕は、休日には良く彼と二人で遊んだりしたものだった。


M氏は、学校に行っていなかったせいもあるかもしれないが、勉強は全くできなかった。
二桁の計算になるともう出来なかった。冗談でもなんでもなく本当の話だ。

だが鉄道や戦闘機に関してはとてつもなく詳しく、特に西武鉄道を走る車両について良く教えてもらったりしたので鉄道に興味なぞない僕であるが、今でも西武線を走る2000系だの3000系だのについては見た目でわかったりする。


とにかく奴は、突飛な行動を良く起こした。
一定の形式にとらわれて、応用や融通がきかない平凡な毎日を過ごしているが、そんな日常を打破したかった(というか壊れたかったが勇気が無かった)僕にとって彼の行動は全てが新鮮であった。



まず、彼は家の中で花火をやった。それも昼間。

普通、花火は家の外で、しかも夜中にやるものだと思うのだがどうだろう?


彼の家の畳は半焼した。




次に彼は、特攻航空機桜花に乗り米軍駆逐艇へ突撃する神風隊を再現した画期的な遊びを開発。

ジャングルジムに向かって全速力で自転車を漕ぎ、ぶつかる瞬間に自転車から飛ぶというシンプルかつスリラーなものだ。

彼の乗っていた、買ってから三日しか経ってない新品の自転車は、華々しい大和民族の誇りを再現する遊びによって見事に鉄くずとなった。
その鉄くずを輸送しながら「どうしよう、親父に怒られる」といっていた彼の悲しそうな横顔は今でも鮮明に思い出す事ができる。



彼のプレイステーションは、紫色だった。
クレヨンで、自分で塗ったらしい。


彼のうちわのヒロスエも、顔面が紫色だった。
クレヨンで、自分で塗ったらしい。


一度、彼の実家である埼玉の入間まで自転車で行ってそのまま泊まりに行ったことがある。
片道3時間の死闘だったが、初めてのとてつもない遠出だったし、彼と話ながら自転車に乗り、疲れたら見知らぬコンビニで休憩したり、西武ドームの周囲を周回したり、とても楽しかった。


彼の実家には巨大な九官鳥がいた。

「キューちゃん可愛いなー」

彼は九官鳥にちょっかいを出して右手人差し指を何度もついばまれていた。
明らかに出血しているのだが、彼には痛覚神経がないのだろうか。


彼の実家の二階の部屋に泊めてもらった。


深夜二時、一緒にテレビを見ていた彼が唐突に叫ぶ
「俺いいこと考えた!」

全長1mほどの巨大なテディ・ベアのぬいぐるみを押入れから取り出すと、腕ひしぎ逆十字をキメ、そのまま腕をもぎ取った。

何を考えたのか、もぎとった腕を窓から外に投げつける彼。


十秒後、下から罵声。


親に呼ばれた彼は、3時間経っても帰ってこなかったので5時に僕は寝た。



彼と仲が良いということで、良く教師から「くーちゃん、お前Mのやつを学校へ来るよう説得してくれないか?」などといわれたものだ。

「無理です、やつはてこでも動きません」と返答するしか無かったが。


結局、僕は中3くらいの頃になると今まで仲が良かったグループとさらに集中的につるむようになって、Mとはあまり関わらなかった。

今ヤツが何をしているのか、どこにいるのか、それは知らない。

ただマンネリだった退屈な日常に、ひとさじのスパイスを与えてくれたMには今でも感謝している。






ジャンク自転車使ってもう一度神風ごっこやりてぇなあ。