へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

ゲームの取扱説明書たちへ

車に乗せられて着いた先はゲームやレンタルビデオも取り扱う大型ブックセンター。
ミステリ小説を読むのが趣味の母が、父と一緒に書籍コーナーを巡る。
二人に後ろから付いていくのは小学生の頃の自分だ。

「そうだ、たまにはお前にも何か一本好きなゲームを買ってやるか。一本だけだぞ、あまり高いのはダメだからな」
突然の父の言葉に目を輝かせ、ゲームソフトコーナーへと走る。
パッケージが面白そうなヤツにするか、それとも友達の家で見て楽しそうだったヤツにするか、どのゲームを買ってもらうか迷う。

やがて一本を吟味して手に取り父に渡すと、母の選んだ小説と一緒にブックセンターの紙袋の中にそれは入った。

「父ちゃん、おれ買ってもらったゲームの説明書読みたい」
「家まで待てねえのか、仕方ねえなあ」

車の中で、紙袋の中から買って貰ったソフトの箱を取り出してもらうと、夢中になってパッケージの口に指を引っ掛けて中身を取り出す。
新品のソフトはプラスチックケースの中に紙の説明書と一緒に収まっていた。

説明書はゲームによって薄いものもあれば厚いものもあった。
ただ一つ全ての説明書に共通しているのは、それはオープニング画面よりも一足先にゲームの世界へと誘ってくれる案内人だったということ。
お決まりの操作方法から、キャラクターや地図の紹介、序盤の技・魔法リストから一口アドバイスまで……。
説明書という小さな案内人はこれから体験する冒険へのワクワク感を何倍にも高めてくれた。


あれから決して短くはない時が流れて今、ゲームの取扱説明書はすっかりと姿を消した。
ゲームメーカーが発表する動画や、ゲームメディアのニュースは紙の説明書よりも多くの情報を与えてくれる。
そしてその内容も、かつて説明書に書かれていたものよりもずっと洗練され、伝えるべき内容が伝わりやすく工夫され作られている。

そんな現代だけど、自分は説明書のことがいまだに好きだ。

実際はゲームに関係ないことが書いてあったり、アテにならないようなことが書いてあった手の平サイズの案内人たちに今でも思いを馳せている。
テレビの電源を入れるよりも先に、めくるめく冒険の世界へと手を取ってくれた説明書たち。
どれだけゲームが進化していっても、きみたちのページをめくった幼い日のことを僕は決して忘れないだろう。