へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

ゲームと友達 ギャルゲー地獄篇(美少女ノベルゲー) ゆうじくん

ギャルゲー、やりますか?僕は人から猛烈にススメられたタイトルがあるときだけ、やってみるといった感じです。

昔の僕は「ギャルゲーとかオタクのゲームだろ…」というスレた認識をしていました。当時なんかゲーム自体が大体オタクのものだったのにね。

そんな僕の価値観を変えてくれたのが、ゆうじくんでした。

ゆうじくんは中学生時代にできた友達です。
彼の家はベランダのカギがかかっておらず、不法侵入し放題でした。僕らの間では漫画喫茶のような憩いの場として利用されており、彼の両親公認の上で僕らは自由にゆうじくんの家に出入りしていました。


彼は相当な変わり者で、普通にしている分には年相応に一緒にバカをやるような子なのですが、突然ふと「芸術って何のためにあるんだろうか。真剣に考えたので議論してほしい」とか真顔で言いだす子でした。

その彼の、ちょっと哲学じみたというか、厨二病めいたというか、急に切り出す益体の無い話がまぁ~面白いこと面白いこと。僕はいつしか、彼の家でゴロゴロしにいくのが目的ではなく、彼との妙ちくりんな話を楽しみに、彼の家に通い詰めるようになりました。

そんなゆうじくんが、いつも食い入るようにプレイしているのがいわゆるギャルゲー…美少女キャラが出てくるゲーム、の数々でした。意味が通りやすいようにわざとギャルゲーと表現しています。雑に括って申し訳ない。ゆうじくんはこの頃久遠の絆」「センチメンタルグラフィティ」「シスタープリンセス」「メモリーズオフ」「To heart2あたりをプレイしていました。友達が来ていても一人で黙々と。

最初は僕も「こんなのはオタクのやるゲーム」程度の認識でしたが、ゆうじくん自体の魅力に憑りつかれてしまった僕は「彼がプレイするほどだ、何か隠れた面白さがあるのでは?」と段々気になってきました。結局は多感な青年期特有の気恥ずかしさが勝り、直接「ギャルゲー面白い?」と尋ねる事はできなかったのですが。

高校一年生になったある日の事。上石神井駅の商店街通りにあった、古本と中古ゲームを取り扱っている店で、ゆうじくんがプレイしていたあのゲーム…学園モノの恋愛ADV、メモリーズオフ(以下メモオフ)の、それも廉価版が売っていたじゃありませんか。

廉価版ディスクの、それも中古品という事で僕にも手が出せる金額でした。そして、一緒にその隣に並んでいた「Lの季節」を見てなんとなく面白そうだと思い、そちらも手に取ったのです。僕は16歳でした。
ギャルゲーを生まれて初めて、買いました。

家に帰って早速メモオフとLの季節のプレイを進めてみたのですが、やはりボタンを押して文章を読むだけなのが、ちょっと肌に合わないと感じました。僕は落ち着きのないプレイヤーなので、ワンダープロジェクトですらピーノが常に犬でも猫でも何か食べていてくれないと、僕自身が貧乏ゆすりを始めてしまうほどなのです。

ゆうじくんがハマったジャンルの魅力、分からずか?と少しがっかりしかけた時でした。ああ、僕にも人間性のかけらがありました。あったんです。実は、人より何倍も涙腺が緩かったんです。泣きました。なんか、なんでもないような場面ですら、登場人物に感情移入して、それはもう泣きました。今思い返しても、初代メモオフってそんな泣くシーンあったか…?って感じなんですけど、当時泣いたんです、それはもう。

ゆうじくんは家が近かった上に、いつまでも戸締りフリーを続けていたので、高校にあがっても暇さえあれば遊びに行ってました。そしてついに「ゆうじくん。メモオフをやったよ。素晴らしいゲームだった」と感想を伝える事ができたのです。


「うむ。分かってくれたか双海さんの良さを」


息子を見つめる父親のような、ゆうじくんの温かい表情が忘れられません。ついでに、プレイ中のLの季節についてもちょっとだけ話をして、その日はメモオフを語るに語ってから、別れました。

…その翌日、また彼の家に遊びにいった時の事です。

「聖邪さんってキャラさぁ。出てくるタイミングが唐突だよな。それとさ…」

部屋に入ってきた僕を見るなり、ゆうじくんが何故かLの季節のストーリーについて語り始めたのです。
「え?」と、面食らいました。
彼は未プレイのゲームのはずです。……あぁ、やっぱりゆうじくんは凄い人でした。
転がっていました、プレステの隣にLの季節のパッケージが。
昨日、僕が帰ったあと、すぐに買って一晩中プレイし通したそうです。

君には敵わないよゆうじくん。僕のゆうじくんに対する尊敬の念は、この時に雲を破り天を衝き宇宙へと果てしなく広がっていきました。

そんな、僕にとってのギャルゲーの父である、ゆうじくんは、高校二年生にあがる前に、急に引っ越しが決まり、それからは会う事はありませんでした。お互いにケータイも持っていなかった頃で、連絡を取る方法も無く。

いや~会いたいなぁ~ゆうじくん。彼は僕のギャルゲーへの偏見を消し去ってくれた、偉大なる友なのです。どこでどうしてるんだろうなぁ~、彼、絶対に「cross†Channel」とか好きだろうな…今もガシガシ美少女ゲームやってるのかなぁ。彼もゲームジャンキーという不治の病っぽい感じではあったからなぁ。

という事で、気の利いた結びもなく今回の話はおしまいです。
ゆうじくん…メモオフ名物のバナ納豆パンあるだろ…?俺、あれ実際に食ってみたんだぜ…。