へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

僕と奇妙な常連

ゲームセンターにはそこを住処とし、いつ行っても居る…というプレイヤーが存在する。彼らは一般的に常連と呼ばれる客層だ。あなたのゲームセンターにも常連はいただろうか。
今回はホームの常連と、彼らを通してゲーセンについて色々学んだお話だ。


東伏見のゲームセンター「悟空」は駅前近くの50円ゲーセンで、僕が毎日のように通っていた馴染みの店だ。

中学生の頃に「GUILTY GEAR X(GGX)」という格闘ゲームが稼働し、悟空にも対戦台が入荷された。後に大ヒットとなるシリーズの、アーケードでの初稼働作品である。下手の横好きで格闘ゲームにも色々手を出していたので、自分もこのゲームをプレイし始める。

対戦台なので、一人がプレイしているところにコインを入れると乱入プレイ…つまりは対人戦になる。人気のゲームだったので、大体すぐに乱入されては席を退かされてしまっていた。ある程度上達するまでは、非常に歯痒い思いを何度もした。

授業が五時限目までの日など、早く帰れる日には真っ直ぐに悟空に向かい、ゲーセン仲間の高橋君や、柳澤君と共に練習を重ねる日々が続く。特に高橋君は上達が著しく、お互いに攻略情報を共有しあっていた。

攻略情報はカウンターに備え付けられていたアーケードゲーム雑誌(アルカディア)のコラムくらいしか仕入れ先が無く、僕のプレイは立ち回りに難点があった。その代わり、相手の体力を多く減らす連続技、いわゆるコンボについては練習を重ねて、実戦にも導入できるようになってきた。

僕はミリアというキャラをメインで使っていた。相手に一度足払いを決めてさえしまえば、起き上がりに猛烈な攻めを重ねる事ができるキャラである。立ち回りに多少実力差があっても、相手が起き上がりの防御の判断をミスってくれれば一気に勝ちに持っていくことができたので、とても気に入っていたキャラだ。

それでも、大人の格ゲーマーや、財力、プレイ時間ともに違う大学生くらいのプレイヤーには勝ち越す事は出来ない。通算の成績を振り返ってみると、1回勝つまでに少なくとも3回は負けていた。

始めた頃は誰と対戦しようが1回すら勝てなかったので、少しずつでも上達していたのは救いだったかもしれない。それゆえに、こんな戦績だろうが、一応自分は「格ゲーマー」であるという出所不明の誇りのようなものを持つ事が出来て、飽きずに筐体へ向かう日々が続く。

ある時、乱入してくる相手は決まったプレイヤー達だという事に気がついた。つまりは、ゲームセンター悟空の"常連"である。当時。悟空のGGXの常連は四名ほど存在した。

常連1…いつも柄シャツにジーンズの出で立ちの、ホスト風の人だ。交流ノートを書いている人で、HNも知っている。近所のローソンで見かけた事を書きこんだら、「誰だおめえ?名指しで俺の事書いてんじゃねえよ」と返信が来て、怖くて尿をちびった。確かに知らない相手に近所で見かけたとか言われたら、こう返すのも無理はない。コミュニケーションを取るにも少し考えないといけない、と学ばせてくれた人だ。

常連2…バンダナを巻いている二十代くらいのタバコ好きの兄ちゃんだ。いつ見てもバンダナを巻いている。割と良い勝負になる事が多かったので、たまにこっちからも乱入していた。

常連3…眼鏡をかけた小柄な大学生くらいの人だ。僕より全然強い。GGXではソルという主人公キャラを使っている。

常連4…大柄な体格で、常連3といつも一緒にいる大学生くらいの人だ。この人も僕より全然強い。GGXではポチョムキンという巨体の投げキャラを使っている。

こちらもプレイする以上、貴重な50円がかかっている。プレイタイミングは慎重であった。常連3,4には勝ち目が薄いので、コインを入れる際には彼らがいない時を見計らう。常連1は、そもそも上で書いた事件で完全にビビってしまい、近寄るのすら避けた。

…さて、この頃の僕らはマナーのない悪ガキで、ゲームセンターでは大変失礼な振る舞いをしてしまっていた。

当時の特に横暴な行いの一つに、対戦相手にあだ名をつけて、対戦中に叫んで威嚇するという、悪童極まった幼稚な行為があった。僕らはグループぐるみでその非行に走った。要するに、ゲームの腕で勝てないので、精神攻撃で少しでもミスを誘発しようという、悪あがきの一種である。

この時につけて叫んでいたあだ名は本当にしょうもないものばかりだった。

常連3はGGXのダストアタックという技を撃つ際にテンションが上がっているように見えた事から「ダスト」、もしくは眼鏡をしていたので「メガネ」と名付けた。単純で品性もない。ちなみにこの三年後、僕も視力低下により眼鏡を必要とする。

常連4は体格が良く色黒だったので「黒ゴマ」と呼んでいた。今思うと意味がわからない。

たまに常連3,4と一緒に来る細身で顔が良い男性には、特に貶すところがなかったので「ティータイム」というあだ名をつけていた。なんか貴族っぽくて優雅に紅茶を飲んでそうないけすかないヤツだったからだ。

特にポチョムキン使いで、本人の体格も良い常連4相手に僕らは「おい黒ゴマ!!ポチョムキンポチョムキン使ってんじゃねえぞ!」と筐体の向こうから積極的に喚き立て、少しでも相手を萎縮させようと躍起になっていた。

彼らからすれば、ちょっと店員に言うなりすれば僕らを即出禁に出来ただろうし、なんなら自ら少し脅しをかければ、年の離れたこちらなど一発で黙らせる事が出来ただろう。しかし、彼らはただ黙々とまるで職人のように、ゲームの腕だけをもって、こちらを実力で圧倒する事だけに集中してくれていた。

人間の肉体にチンパンジーの脳を搭載していたそんな僕らの振る舞いは一ヶ月ほど続いたが、すぐに変化が訪れる時が来た。常連というほど遊びに来てはいなかったが、僕らが同じようにあだ名をつけてヤジを飛ばしたプレイヤーが他に一人いた。一つ年上で違う学校に通っている、進学塾帰りに良く遊びにくるプレイヤー、Oさんだ。名前は友達の友達という遠いツテで知った。彼はこのゲームセンターで一番GGXが上手だった。

Oさんに乱入されて蹴散らされた僕らは、彼にも「がり勉メガネ」というあだ名をつける。当時中学生だとしても不安な語彙力だ。僕らは彼にやられてはそのつど「がり勉眼鏡野郎~~!」とゲーセンに響くような声で騒ぎ立てた。繰り返すが僕も三年後に眼鏡ユーザーになる。彼も筐体越しに叫ばれて、とても不快な思いをしたに違いなかった。そんな彼と、交流を持つ機会が訪れる。

いつの間にか、高橋君が彼と接触し、GGXについて教わっていたのだ。高橋君は既に仲間内ではGGXについて最も詳しく、司令塔的な役割となっていたから、彼が築いた繋がりを無視する事は今後GGXについて貴重な情報を得る機会を失う事を意味していた。僕はOさんがプレイを終わるのを待ってから声をかけ、高橋君の友人である事を告げると、今までさんざん騒ぎ立てた事を謝罪した。この時Oさんが言った事を完全には思い出せないが、「いいよ、俺も見るなり乱入して一方的にやっつけちゃったからね」というような感じで僕らを許してくれて、それからGGXについて色々教えてくれた。Oさんが高校生になって悟空に来れなくなるまで、僕らとの交流は続いた。

このOさんの件で、僕は今までヤジを飛ばしてきた相手が、話しかければ返事も来て当然、意志をもった普通の人間だという当たり前の事を学んだ。僕らのグループはそれから、常連3,4に対して悪態をつく事をぱったりと中止した。

常連3,4と顔を合わせ対戦する機会はGGXの新作「GGXX」が出ても暫く続き、やがて僕の興味がGGXX以外のゲームに移り始めたあたりで一旦落ち着き、そして悟空が閉店した事により終わりを迎える。

僕が大変失礼な振る舞いをしていた事実は消えないし、彼らにも嫌な思いをさせてしまっただろう。彼らと、そしてOさんが大人の対応をしてくれたお陰で、マナーについて考える機会をもてて、何よりそれからも悟空という場所に居続ける事ができたのには、本当に感謝しかない。

なぜ今回、こんな話を書いたのかというと、この時の常連3,4を少し前に電車の中で偶然見かけたからだ。彼らがゲーセンで知り合ったのか、元々学友だったのか、そこまでは知る由もないが、悟空にいた頃から10年は経つのに、変わらず二人で仲良く談笑しているのを見て、なんだか嬉しくなってしまった。

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彼らはGGXにまつわる一部の常連で、他にも悟空にはたくさんの常連がいた。

連邦vsジオンで仲良くなったお兄さんと、そしてそのご友人の方々。いつもパワーストーン2をやりにくるおじさんに、怒首領蜂にひたすら挑み続ける作業着の兄ちゃんや、バーチャロンだけやりに通っていたおじさん達…実際に話しかけた事のある人は少ないけれど、あの日あの場所で、ゲームセンターの風景の中に、その常連たちは存在していて、確かに同じ空間で同じゲームを楽しんでいたのだ。

他の常連からすれば、僕と友人は「いつも騒いでるうるさいガキの常連」という風景の一部だっただろう。恥ずかしい限りだ。それにしても常連3,4に奇跡的にこのブログが届いたりしないだろうか。直接謝りたいなと思う。


以上が僕と、常連のお話。

最近FGOACを始めて、三国志大戦へも復帰したので、時間を見つけてはまた、どこかの誰かの風景の一部にでもなりいこうと思う。