へたれゲーム貴族

未知の世界への鍵(ゲーム)を手に。

ゲームと友達「ファイナルファンタジータクティクス・上野君編」

昔プレイしたゲームについて、当時の友達のことを絡めた思い出のシリーズ、今回はFFTことファイナルファンタジータクティクス編。


タクマ少年はスポーツも勉強も出来ず、学生時代は小中高と、教室の隅とのシナジーを一貫して形成していたが、それゆえに周囲には似たような不器用な連中が集まって不気味な渦を形成し、それなりに心地よい溺れ方をすることが出来た。

ゲーマー奇面組ともいえる僕の友達の一人、上野君とFFTの思いでについて記憶の限り記していこうと思う。


ファイナルファンタジータクティクス。

スクウェアが放つ国民的RPG・FFがジャンルをシミュレーションRPGに変えて新登場──当時小学6年生のタクマ少年にとって、これは大事件であった。

ゲームに詳しくなくてもFFならVやVIはプレイしたことがあるクラスメイトもおり、そんな"一般ピープル"と数少ない話題のネタとして共有できる事で大好きなFFシリーズが、クラスで自分以外プレイしているのを聞いたことがない、シミュレーションRPG(SRPG)という土俵に上がってきたのだ。

例えるならアイドルが自分しか知らないマイナーな作品を、テレビで褒めちぎっているような、そんな感慨深い気持ちである。
SRPGといえばクラスの誰も知らない「タクティクスオウガ」や、「魔神転生」を独りでプレイしていたのみ。FFTには大きな期待を持っていた。

が、いざ発売してみるとクラスメイトの何人かがFFTを購入したのだが、クリアまで漕ぎ着けたのはわずかであり、SRPGというジャンル自体には誰も見向きもしてくれなかった事を覚えている。

そして時は過ぎ僕は小学校を卒業し、中学校へ入学。
彼に出会ったのは入学式から一週間ほどたったある日。

まだこれといった友人もできない僕が、昼休みを持て余しているとストーブの前で腰を落とし踏ん張りながら「チャージ20!」と叫んでいる、パッと見てバカだと分かる親切なヤツを見かける。

彼は後にFFTで絶対手に入れられない装備を、敵から盗んだと大ウソを吹き込んで僕の8時間を奪った上野君だった。彼への怒りは今でも定期的にツイッターで発散している。

彼の姿を見た僕は脳内で「(チャージ20ってまさかFFTのチャージ…?あのポーズはそっくり…でもあんな敵に当たらないゴミ技をいちいち真似するとは考えにくい…)」と考えを巡らせ、悩みながらも上野君へ近づいて勇気を振り絞り一言「チャージ20、弱くない?」という旨の言葉を投げた。
その直後のやり取りまでは覚えていないが、この"ストーブ前突然チャージ20事件"で、僕は上野君という中学生活では初めてのゲーマー仲間を得る事が出来た。

上野君はにんにくを食ったあと人に息を吐きかけてきたり、誰彼かまわずロッカーに押し込めては自分も入っては全身をベタベタ触る奇癖も持っているのが大きな難点だが、学生時代に出来た友人の中では数少ないゲーマー肌の人間であった。
メジャー・マイナー問わず様々なゲームをプレイし、やり込み(学生時代の僕らのいうやり込みとはプレイ時間がべらぼうに長かったり、全員Lv99にしたりといったもの)にも手を付ける、ゲーム趣味人の彼とはすぐに仲良くなった。

彼の家に招待され、初めてパソコンでのみ遊べるゲームがある事も知った。その時見せてもらったHALF-LIFEというゲームは、今までに見たこともない過激な描写が盛りだくさんで、ゲーム機以外で遊べるゲームが存在する事に驚いたのを覚えている(余談だが大人になってからこのHALF-LIFEのアーケード版に生涯稀に見るほどズブ嵌りする)

彼とは他にも色々なゲームの話をして遊んだが、特に思い入れが深いのは冒頭で語ったウソ吹き込み事件だ。

当時中学生で金欠の僕らは常に新しいゲームを手に入れる事が出来たわけではなく、クリア済みの名作を何度もやり直す習慣があった。
中学三年になっても時折FFTを最初から始めては、クリアまでやり続けるといった事を繰り返していた。
これは上野君も同様で、中学卒業を半年ほど後に控えた夏の終わりの頃、飽きもせず何度目かのFFT談義をしていると、彼が唐突に「エルムドア戦で源氏シリーズを盗んだ」と語ったのだ。

このゲームに登場するエルムドアという敵は、そこでしかお目にかかれない源氏シリーズという装備を身に付けており、システム上盗むことができないこの装備が、あろうことか盗める旨攻略本(しかも業界大手が手掛ける有名攻略本)に誤植掲載されてしまった事はゲーム通の間では語り草だ。

上野君はその攻略本、通称・黒本を所持しており僕も夏休みの間ずっと借りて熟読した記憶がある。恐らく誤った記述を鵜呑みにしてウソをついてしまったのだろう。

当時の僕は上野君が源氏シリーズを盗んだというホラ話を信じ、8時間にわたりエルムドアと戦い装備を盗むチャレンジを決行してしまった。

エルムドアが放ってくる強烈な状態異常攻撃は防具による耐性で跳ね返し、一緒に登場する雑魚は早々に蹴散らし、装備を盗む係のキャラクターにスピードを上昇させる補助効果を何度も何度も重ね掛けする。周到な戦術をもって、こちらは絶対の安全を確保した上で、エルムドアが1回動く前に5回も6回も盗むコマンドを浴びせ続けた。朝から夕方まで、挑み続けた。

プレステの電源を切った時に、アイテム欄に源氏シリーズの名が連ねられる事は、当然なかった。


卒業式と共に上野君と遊ぶ事は無くなってしまった。
お互い携帯電話も持っておらず連絡も取らず、離れた高校に進学した。

連絡網を見て家に電話をかけて遊ぶ約束を取り付ければ良かったのでは、とも思うが、僕と彼は学校で会って「今日お前の家行っていい?」と尋ねる以外には、遊びの約束を取り付けた事は無かったから、違う学校に進んだ時点で交友がなくなるのは寂しいけれど必然だったかもしれない。

三年間遊んだ仲なのに、それから連絡を取らないのはドライすぎると思うかもしれないが、上野君に限らず大体の仲間とこんな感じで疎遠になった。今でも連絡を取る中学の同級生は二名しか残っておらず、頻度も年に一回あるかないかだ。

卒業後三年間が経過し、PCとネット環境を手に入れた高校三年生の僕は、ゲームの知識の吸収に夢中になっていた。

自分の家にしかなく友達が持っていない、友達と話が出来なかったゲーム達の話題がネットの世界にはこれでもかと溢れていた。発売当時リアルタイムで友達と語り合う機会を持てなかったマイナーゲームの攻略サイトや、BBSにひたすら自分の世界を求めた。

そんな折に見つけたFFTの攻略サイトにとんでもない一文を見つける。
それは「エルムドアの源氏シリーズは盗めない。攻略本には嘘が書いてある」という情報であった。
にんにくを食って大口開け、口臭をかまそうとする上野の顔が怒りと共に浮かび上がってくる。あのクソ野郎め。

いつかふと街中で会ったらエルムドアに盗むを実行した回数くらいビンタでもしたろ。
と誓ったが、結局それから彼に一度も出会えていない。